第十九回の出店まであと二週間──全集の端本の値札の裏に、作品名を書く

二〇二六年十一月四日、水曜日。秋の出店まで、あと二週間あまりになりました。

二週間前は、値札を書く日

秋の第十九回名古屋アンティークマーケットは、十一月二十一日(土)・二十二日(日)・二十三日(月・祝)の三日間です(二〇二六年十一月四日、公式サイトで確認)。私たち夫婦にとっては、このマーケットへの三度目の出店になります。

出店の準備は、一か月前から四つの節目に分けて進めています。一か月前に品を選び、二週間前に値段を調べて値札を書き、一週間前に持ち物と釣り銭をそろえ、前日は積み込みだけ。この段取りはフリマ出店の準備──七十歳の私の、品選びと値札と持ち物にまとめました。

今日は、その二つ目の節目です。居間の座卓に画用紙と筆ペンを出し、妻が選り分けておいてくれた品を、一つずつ手に取りながら値札を書きました。

全集の端本を、もう一度連れて行く

今回の箱には、春に売れ残った文学全集の端本が入っています。全集の端本は、揃っていないと値が付きにくく、春は手に取ってくださる方がいても、財布を開くところまではいきませんでした。

読書週間を前に本棚を一段整えたとき、妻と相談して行き先を決めました。授業で取り上げた作家の巻は一冊だけ手元に残し、残りは秋にもう一度連れて行く。値札の裏には、その巻で読める作品の名前を一行だけ書く。それでも残った巻は、寄贈を受け付けてくれる先を探す。経緯は読書週間を前に、本棚を一段だけ整える──元国語教師の本の手放し方に書きました。

今日は、その「一行」を書く日でもありました。

目次を開いて、一作だけ選ぶ

全集の端本の値札は、巻ごとに目次を開き、その巻でいちばん読んでほしい作品を一つだけ選んで、裏に書くことにしました。収められた作品を全部並べると、説明書きのようになってしまいます。一つに絞るほうが、手に取った方の目に留まると考えたのです。

やってみると、これがなかなか進みません。目次を開くと、どれも書きたくなります。一作を選ぶには、ほかの作品をあきらめなければなりません。教師時代、生徒に「好きな本を一冊選び、三行で紹介しなさい」という課題を出していましたが、選ぶ苦しさを、今ごろになって自分が味わっています。

迷ったときは、次の三つを物差しにしました。

  1. 教科書や授業で出会ったことのある人が多い作品を選ぶ
  2. 短くて、一晩で読み切れる作品を選ぶ
  3. 作品名だけでは足りないときは、どんな話かを十字ほど添える

一つ目は、売り場での会話のためです。「ああ、これ、学校で読んだ」と思い出していただければ、そこから話が始まります。二つ目は、全集の一冊は重く、厚いからです。全部を読まなくても、まずこの一作から、と言えるほうが、持ち帰っていただきやすいと考えました。

一行に収める難しさ

来歴を一行で書く値札は、春の出店から続けています。韓国の湯呑みなら手に入れた市場の名前と年、妻の小鉢ならどこで何のために買ったか。品物の履歴書のようなものです。

ところが、本の一行は勝手が違いました。食器の来歴は、私たち夫婦の思い出を書けば済みます。けれども、本の中身は、作家のものです。私の思い出を書きすぎると押しつけがましくなり、作品の説明を書きすぎると、裏表紙の紹介文のようになってしまいます。

何枚か書き直して、作品名と、その作品を一言で表す言葉だけを書くことに落ち着きました。生徒の作文に「削れるところは削りなさい」と赤を入れてきた三十八年でしたが、自分の文章を削るのは、今も昔も、いちばん骨の折れる仕事です。

書き終えた値札を並べてみると、外から見れば同じ箱、同じ背表紙の端本に、一冊ずつ違う顔が付いたように見えました。

三日間に向けて、箱を分ける

値札を書き終えたら、品を箱に分けます。今回は初めての三日間開催ですので、一日目に並べる箱と、二日目・三日目に足す箱とを分けておくことにしました。補充用の箱には、妻の字で大きく「補充」と書いてあります。

端本は、一日目には三冊だけ並べ、残りは補充の箱に入れました。全部を一度に並べると、また同じ背表紙の列になってしまうからです。三冊ずつなら、値札の裏を一冊ずつ読んでいただける、という妻の読みです。

会場の橘町は、江戸時代に尾張徳川家から古物と古鉄の専売を許された町だと、公式サイトに紹介されています。古いものが人の手から手へ渡ってきた町で、今度は古い本が、誰かの手に渡っていく。そうなればうれしい、と思いながら、箱の蓋を閉じました。

選ぶことも、身じまいのうち

値札を書くのは、値段を付ける作業です。けれども、全集の端本に一作を選んでいるうちに、これは自分の読書を振り返る作業でもあると気づきました。あの作品を教室で読んだのは、何年生の何学期だったか。誰が、どんな感想を書いてきたか。目次を開くたびに、そんなことが思い出されます。

手放す前に、もう一度手に取って、選ぶ。身じまいとは、結局、そういうことの積み重ねなのだと思います。

一週間後には、持ち物と釣り銭をそろえる節目が来ます。三日間の境内で、端本がどんな方の手に渡ったか、あるいは渡らなかったかは、出店を終えたら、またここに書き留めるつもりです。名古屋アンティークマーケットは四月と十一月の年二回の開催で、開催の案内は名古屋アンティークマーケット公式サイトに掲載されています。春の出店の様子は名古屋アンティークマーケット、二度目の出店で変えたことにあります。